特定課題セッションIII :社会福祉関係職の養成、およびその研究内容と方法における課題と展望
                       岡 多枝子

福祉系高校から福祉系大学への接続
 -高校時代の進路選択と満足度-

○ 日本福祉大学   岡 多枝子 (会員番号6499)
キーワード: 《福祉系高校》 《福祉系大学》 《高大接続教育》

1.研 究 目 的

本研究の目的は,福祉系高校1に在籍する生徒が福祉系大学への進路選択を行う過程と大学入学後 の満足度を検討し,福祉教育における高大接続教育の課題を考察することである. 

2.研究の視点および方法
(1) 研究の視点

福祉現場の不十分な労働環境やネガティブイメージによる福祉離れ,福祉系大学の入学者減少や卒業後の 他分野就職の増加等,日本の社会福祉専門職養成は深刻な課題に直面している.こうした中で,福祉の道を志し 福祉の資格取得に努力する福祉系高校生(厚生労働省社会保障審議会2006)に関する研究動向が注目される. 福祉系高校等の職業高校に在籍する生徒の発達プロセスを普通科高校生と比較検討する必要性の提起(大橋2006) や,福祉科生徒の社会福祉現場実習が高齢者イメージに及ぼす肯定的変化(萩原ら2008),高校時代の福祉教育 が卒業後の職業や人生に及ぼす影響(田村ら2008)等が報告されている.また,福祉系高校生の卒業後の福祉分野 における離職率が他と比べて低い傾向にあり2(文部科学省 2006),福祉系高校から職業への接続には一定の成果 が認められている.しかしこれまで福祉系高校と福祉系大学との接続に関して進路選択や満足度に着目した研究は 見られない.以上のことから,福祉系高校生の進路希望の維持や変更と福祉系大学での満足度調査を行い,福祉 教育における高大接続教育の課題を考察することには意義があると考える.
(2) 研究方法
 福祉系高校生と福祉系大学生に対する以下の調査をもとに高大接続教育の課題を考察する.
1)福祉系高校生へのアンケート調査
 2007年2月に全国福祉高等学校長会加盟233校に在籍する3年生を対象に,①入学動機,②実習経験,③進路選択, ④福祉教育の評価,⑤進路選択に対する満足度等に関する質問紙による集合調査を行い,SPSS ver.16.0により 因子分析やクロス集計等の分析を行った.
2)福祉系大学生へのアンケート調査
 2010年5月にA福祉系大学1年生233名を対象に,①高校時代の進路選択,②進路選択に対する高校卒業時の満足度, ③進路選択に対する調査時の満足度,④大学入学動機等に関する質問紙による集合調査を行い,SPSS ver.16.0に よりクロス集計等の分析を行った.
3) 福祉系大学生へのインタビュー調査
 2010年1~5月にA・B福祉系大学生(福祉系高校卒業生15名・普通科高校卒業生15名・計30名)を対象に,①高校 時代の進路選択,②進路選択に対する高校卒業時の満足度,③進路選択に対する入学直後の満足度,④大学入学 動機,⑤福祉系大学を選択する際の周囲の反応(支援や反対),⑥入学直後のギャップ等に関する個人又はグループ による面接調査を行い,当事者参加型の質的分析を行った.

3.倫理的配慮

質問紙は無記名自記式自由回答で,面接調査は研究目的と公表方法を文書と口頭で説明して同意を得た.研究 機関からも,調査は回答者が不利益を受ける事はなく倫理上問題がないとの確認を得た.

4.研 究 結 果

(1) 結果と考察
  1)福祉系高校生へのアンケート調査
 回答は149校4,127名(回収率68.3%),男子659名,女子3,256名,未記入212名である.福祉系高校生の8割強が明確 な動機(福祉の資格取得・福祉の進路・福祉の勉強)を持ち,曖昧な動機は2割弱である.動機の明確な者は福祉系進路 を選択し曖昧な者は一般就職を選択する傾向がみられた.現場実習では能動的因子と内省的因子が見出されともに福祉系 進路選択を促進する.介護福祉士養成校は福祉就職が,その他の高校では福祉進学が多い.一方,男子は女子に比べて 曖昧な動機の割合が高く卒業時に福祉進学を,女子は明確な動機を持ち実習にも能動的で福祉就職を選択する割合が高い.
2)福祉系大学生へのアンケート調査
 回答は211名(回収率90.6%),男子88名,女子123名.8割以上が普通科高校出身である.高校入学時の進路希望は 約半数が一般進学,3割弱が福祉進学,2割が未定である.男子は高校入学時には約半数が一般進学希望で,女子は高校 入学時から3割以上が福祉進学希望である.普通科卒業生は高校入学時に半数以上が一般進学希望であるが,福祉系高校 卒業生は高校入学時から7割以上が福祉進学希望である.全体として高校時代の進路選択に満足(非常に満足・やや満足) していた者は高校卒業時には約6割,大学入学後には約8割と2割の増加がみられる.大学への入学動機が明確(資格取得 ・進路・勉強)な者は曖昧な者より満足度が高く,特に福祉の勉強を大学入学動機とする者の満足度が高いことから, 福祉の専門的な授業に対する一定の満足度がうかがえる.
3)福祉系大学生へのインタビュー調査
 福祉系大学に入学するまでに全員が紆余曲折を経て来ている.福祉系高校卒業生が周囲(家族や教師等)から比較的 肯定的な支援を得ているのに対して,普通科卒業生は福祉のマイナスイメージから否定的対応を受けながら入学している. 普通科では進学者が大半であるのに反して福祉系では就職が多い中で受験勉強と介護福祉士国家試験との両立などでの 苦労を乗り越えて来た者が多い.また,入学後のギャップに関して福祉系出身者は現場実習や国家試験などに全力で努力 して来た経験から,大学での授業や大学生活が全体的にのんびりしていることに戸惑う傾向があるものの,高校では暗記 中心だったが大学では考える授業が多く自主学習が重要であるとしている.
(2) 結論と課題
 調査結果から福祉系大学に入学する者の多くが高校時代の途中から福祉の道を志すことや性差及び出身高校での進路選択 プロセスの違いも明らかになった.大学は,資格校には実践的な専門的知識や技術及び情報を,教養校には福祉の多様性 と広がりを伝えることが求められている.大学教育との接続にも留意し,高校生が科目履修や入学後の単位認定が可能な システムの構築も求められている.性差や出身高校の特性に配慮したカリキュラムや授業実践として,フィールドワーク やサービスラーニング等,経験的学びを通した共同学習も重要である.

文献
萩原明子ら(2008)「福祉科高校生の高齢者イメージに与える社会福祉現場の効果」『社会福祉学』49(1).
文部科学省(2006)「福祉系高校における介護福祉士の養成について」社会保障審議会委員等提出資料1.
岡多枝子(2007)「福祉系高校における生徒の入学動機と進路決定―動機の差異に応じた支援のあり方」『日本福祉教育 ・ボランティア学習学会年報』12.
大橋謙策(2005)「高校福祉科教員養成における教育課題」『日本社会事業大学社会事業研究所年報』41.
田村真広ら(2009)「福祉科卒業生のライフコース―持続する福祉マインド―」ミネルヴァ書房.
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1 1987年の「社会福祉士及び介護福祉士法」介護福祉士養成ルートに福祉系高校が位置づけられ,2003年度 には文部科学省学習指導要領に教科「福祉」が創設された.本稿では以上の経過を踏まえて高等学校の福祉に関する学科 ・コースの総称を福祉系高校とする.
2 福祉系高校卒業後の進路(就職・進学)は福祉分野が67.3%(2006年3月卒業生),福祉分野の離職率13.5% (2003年4月就職者の2006年9月時点の値)は,高卒者の離職率49.8%(2003年4月就職者の2006年3月時点の値)に比較 して低いことが特長とした.

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