社会福祉専門職養成教育研究の動静および今後の課題
-研究テーマと研究方法を中心に-
○ 名古屋学院大学 山下 匡将 (会員番号6673)
キーワード: 《福祉教育》 《専門職養成》 《研究方法》
本研究では、わが国における社会福祉専門職養成教育に関する先行研究を概観し、当該研究領域における課題を抽出する。
2.研究の視点および方法(1)研究の視点
先行研究の整理にあたり、そのテーマおよび研究対象はもちろんのこと、「どのような研究方法が用いられているか」 を問うべく、研究アプローチの観点から検討する。また、「社会福祉士養成」「実習」「初年次」等の限定的なキーワード 設定を避け、意図的に検索対象を広げることにより、当該研究領域における先行研究を網羅する。
(2)方法対象は、国立国会図書館が提供する資料検索サービスであるNDL-OPAC(「雑誌記事索引検索」URL:http://opac.ndl.go.jp
/Process)において、「福祉」「教育」という2つのキーワードで検索された文献である(最終検索日:2010年5月8日)。検索
対象期間(発表・発行年)は、検索可能なすべての期間である。
分析方法は、当該研究における研究テーマの類似度から分類し、明確な分類が困難なものについては、内容分析的手法に
より、研究対象および研究方法を中心に検討を加え、研究の類型化を試みた。
本研究は文献研究であり、対象となる文献の引用等については、日本社会福祉学会の定める研究倫理指針を遵守する。
4.研 究 結 果(1)検索結果
検索の結果、2951件の雑誌記事が該当した。対象となる文献を選別すべく、第一に、商業誌等の除外を目的に「編者・ 出版社」を「学会」に限定したところ、506件が該当した。第二に、企画・特集記事を削除したところ、208件が該当した。 第三に、タイトルをもとに「福祉教育」「教育福祉」「その他」の3カテゴリーに分類した結果、「福祉教育」には108件が 該当した。第四に、「国内の研究であること」「専門職養成教育であること(現職者・リカレント教育を除く)」「社会福祉 分野であること」「論文であること(報告・研究ノートを除く)」を条件に精選したところ、19件の文献が抽出された。
(2)研究の年次推移19件のうち、最も早い時期に発表されたのは牧野田(1990)の報告である。その後は、1992年に2件、95年に1件、96年に 2件が発表されていた。2000年以降では、2000年に2件、02年に2件、03年に2件、04年に1件、05年に2件、07年に2件、08年 に2件が発表されていた。
(3)研究テーマおよび研究対象による類型化当該研究を類型化したところ、「実習教育」に関する研究が11件と最も多かった。その他の8件は、「カリキュラム (シラバス分析)」に関する研究が1件〔生沼ら(2005)〕、「教育目標(教育ニーズの把握)」に関する研究が1件〔白石(2007)〕 、「教育内容(題材)」に関する研究が2件〔武田(2000)、高木(2007)〕、「教育方法」に関する研究が2件〔グリーン・渡部 (1995)、菊池(2002)〕、「教育ツール」に関する研究が1件〔小山(1992)〕、「高等学校福祉科教育(教員養成)」に関する 研究が1件〔保住(2005)〕であった。
(4)研究方法の概要上記8件の研究のうち、量的研究は白石(2007)のみであり、その他の7件は質的研究であった。なお、白石(2007)の研究は
単純集計のみの分析結果であり、質的研究のうち、渡部(1995)を除いた6件は、事例検討等をおこなっておらず提言のみの
提示であった。
以上の結果から、当該研究領域における研究数(論文数)の量的な不足、および少数の研究のなかでの実習教育への偏りが
明らかとなった。研究方法については、量的な研究手法による客観性の担保や一般化への試みが不十分であり、質的研究に
あっても、教育効果等の検討がなされておらず、研究方法の確立が喫緊の課題といえる。
・グリーン・渡部 律子(1995)「ロールプレイと三段階フィードバックの組み合わせによる社会福祉援助面接技術教育の試み:アメリカのMSWプログラムの事例を通じて 」『日本社会福祉実践理論学会研究紀要 』(3),47-65.
・保住 芳美(2005)「大学における福祉科教育法の課題--高等学校福祉科教員養成のあり方を考える」『川崎医療福祉学会誌 』14(2),239-247.
・菊地 みほ(2002)「社会福祉援助専門職養成における人権意識・権利擁護意識の教育-ホリスティック・アプローチの視点から 」『フィロソフィア 』(90),45-57.
・小山 隆(1992)「福祉系大学等の専門教育へのパソコンの導入と活用 」『日本社会福祉実践理論学会研究紀要』(1),23-38.
・牧野田 恵美子(1990)「本学科〔日本女子大学社会福祉学科〕における医療福祉実習教育」『社会福祉』(31),41-49.
・生沼 礼一・大屋 陽祐・森下 早苗(2005)「学部教育における社会福祉士養成教育上の現状と課題」『日米高齢者保健福祉学会誌 』(1),145-158.
・白石 淳(2007)「大学における福祉専門職業人の養成に関する一考察-北海道女子大学新入学生への意識調査を通して 」『北海道老年社会科学 』6(1),28-33.
・高木 博史(2007)「社会福祉専門教育と差別問題に関する一考察 」『立正社会福祉研究』8(2) ,43-49.
・武田 丈(2000)「社会福祉におけるリサーチ活用の障害と普及方法-ソーシャルワーカーの役割と責任」『社会福祉実践理論研究』(9),75-88.