特定課題セッションII :社会福祉における専門職ネットワーク研究の現状と課題  山野 則子

市町村児童虐待防止ネットワークを機能させるマネジメントプロセス

○ 大阪府立大学  山野 則子 (会員番号3203)
キーワード: 《児童虐待》 《市町村ネットワーク》 《マネジメント》

1.研 究 目 的

近年,児童虐待問題の多発,深刻化は著しく,児童虐待への対応が問われている.厚生労働省は,児童福祉法 と児童虐待防止等に関する法律の改正を繰り返し,児童相談所に重大事案,緊急対応を,市町村に第一義的な相談 を受けること,市町村児童虐待防止ネットワーク(現在,名称を「要保護児童対策地域協議会」に変更)を設置す ること,という明らかな方向性を示し始めた.しかし,市町村児童虐待防止ネットワークの法定化はなされたが, 児童虐待事件となる事案は後を絶たず,その機能も問われている.その背景の問題点として,以下4点,①利用者 が児童虐待と認識していないゆえに援助者に攻撃的になるという児童虐待問題の固有性があること,②親の難しさ ゆえにネットワークに参画する機関の問題意識が同じとは限らない境側である関係機関の問題があること,③児童 相談所のように歴史がなく専門職採用もなされているわけではない市町村は専門性が低いこと,④ネットワーク運 営自体の困難さがあること,をあげることができる(山野2009).
 これらの問題を乗り越えていくには,ネットワークを機能させるマネジメントが必要であると考えた.ネットワー クが機能するということは,単に個別事例の病理への対応だけではなく,地域の関係機関の認識の変化を生むこと ができ,地域の問題解決能力を高めることも可能になる.ゆえに,市町村児童虐待防止ネットワークを機能させる マネジメントプロセスを明らかにし実践的活用を導くことが,本領域の喫緊の課題であり,本研究の目的である. 本研究は,ネットワーク研究のなかでは,ネットワーク性(松岡2001)を実現するための実証的研究として位置付 けることができる意義があると考える.

2.研究の視点および方法

本発表の視点の1点は,ネットワークに関して,概念に含まれる本質の理念を探り,トップダウンで作られた 専門職ネットワークにおいて,その本質や理念を生かすことができるのかについて探る.もう1点は,権限のない, しかし地域性の高い市町村という領域,児童虐待という対象,これらの領域の特異性という視点を持つことである. その特徴を把握した,ネットワークのマネジメントが必要であり,その限定的な実践モデルの提示を試みたのが, 本研究である.
 限定的な実践モデルを策定するために,グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を活用する.M-GTA を採用する理由は,①市町村の相談部門という広い概念ではなく市町村児童虐待防止ネットワークにおけるマネジ メントという極めて限定領域における研究である,②マネジメントプロセスの研究であり,研究にプロセス性が ある,③同じ現象特性を持つ他の現場において実践的活用を考慮している研究であるからである.さらに,GTAの なかでも,プロセスに意味の深い解釈を組み込む方法,応用現場のインタラクティブ性重視から実践的活用の強調 を示したM-GTAが適切と考えた. 

3.倫理的配慮

調査対象者として,①福祉機関に働く職員,②児童虐待防止ネットワークのフィールドで実際に事例について ネットワークの中心を担っている担当者,③意図的に児童虐待防止ネットワークをマネジメントしている,あるい はマネジメントしようとしている,以上3点を満たす人物を,この領域に詳しい児童相談所所長2名,児童家庭課 課長1名の紹介によって得た.結果的には,12名のインタビューを実施した.
 インタビューは, 2003年12月から2005年8月まで行い,分析を進めながらデータ収集を行った.インタビュー 方法は,半構造化インタビューを倫理的配慮のもとで行った.①研究の趣旨の説明,②プライバシー保護,③テ ープ・メモの使用許可,④最終的に結果報告し,データは破棄すること,以上4点について説明し,インタビュー 場所についても守秘性の高い面接室を使用するなど配慮を行った. 

4.研 究 結 果

分析の結果,市町村児童虐待防止ネットワークにおけるマネジメントには,ネットワークの状態としては初期 段階といえるプロセスと機能し始めているネットワーク機能段階といえるプロセスが見られた.前者は、マネージ ャーはメンバーに働きかけるが,援助がぶつ切れになったり,機関間の相互不信が生じたり,結局それぞれが殻を 閉じるような状態が連鎖してしまう【閉殻の連鎖】であり、後者は、マネージャーは単に家族へのアプロ ーチを考えているだけでなく,たえずネットワークに関わるメンバーへの働きかけを考慮しており、その結果, ネットワーク内部において、さまざまな抵抗や葛藤を持ちながらも自発的に動きがわき起こり連鎖していく 【内発の連鎖】であった.さらに,この2つのプロセスに影響を与える、マネージャーの針のむしろ状態 というコンテクストが存在した.
このコンテクストを示すことで、単に専門性の低さやマネジメント力不足の問題の指摘で終わらせず、なぜこの ようになるのか示すことができた。また、2つのプロセスを提示することによって、その違いを明らかにし、 ネットワークを機能させるプロセスを特徴付けることができた。さらに、市町村の児童虐待領域であることの 特異性を示せた。ネットワーク理論との関連では、トップダウンのネットワークであっても,マネジメント プロセスによって,本来のネットワークの可能性をもたらすことが可能であることを示した.
 以上,本結果から専門職ネットワークの議論を深めたい.


松岡克尚(2001).「『ネットワーク・アプローチ』における実践戦略についての考察―「コーディネーション能力」 概念をもとにして―」『社会福祉実践理論研究』10,25-35.
山野則子(2009)「子ども虐待を防ぐ市町村ネットワークとソーシャルワーク」明石書店

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