ケアマネジメント技術としてのネットワーク構築方法とその効果に関する
実践的研究
-A研究会の活動軌跡をモデルとして-
○ 社団法人尾北医師会 高藤 真弓 (会員番号6298)
日本福祉大学 野中 猛 (会員番号5098)
キーワード: 《ケアマネジメント技術》 《ネットワークの効果》 《ネットワークの構築方法》
介護保険制度の施行後10年間が経過し、ケアマネジメントという対人援助方法と、ケアマネジメントを担う介護支援
専門員の数は急速に増加している。対人援助の領域では、単一の専門職による関与のみでサービス対象者の多様なニーズ
を満たすことは困難であり、介護支援専門員には多種多様なネットワークを構築し、拡大する技術が求められるように
なっている。しかしながら、ケアマネジメント技術におけるネットワークの効果に関する実証的な研究はあまりみられず
、さらにネットワークを構築していく実践的方法についての研究が十分行われているとは言い難い。
そこで本研究では、ケアマネジメント技術の研究を目的として2003年に形成されたA研究会の2003年~2009年の活動軌跡
から、ケアマネジメント技術におけるネットワーク構築方法とその効果についてモデル化を図ることを目的とする。
研究の視点
本研究の目的は、ケアマネジメント技術におけるネットワークの効果を質的に検証し、ネットワーク構築のための実践方法
を提示することにある。社会福祉実践におけるネットワークには相互作用性・成員の主体性・成員の対等性・資源交換性・
成員の多様性という5つの共通要素があると指摘されており(松岡:1998)、これを分析枠組みとして使用してA研究会の
ネットワーク効果を検討した。さらにネットワーク構築方法と課題を提示した。
研究の方法
A研究会はケアマネジメント技術向上に関する研究活動を行うことを目的として、2003年にB大学において形成された
研究会である。研究会の参加者は大学教員、大学院の卒業生、大学院生、介護支援専門員、相談支援専門員、地域包括支援
センター職員等のケアマネジメント関連業務に携わる専門職である。研究会の活動はB大学大学院内で行われている。主な
活動内容は①研究会メンバーによる月1回の定例研究会、②県内と隣接する県外の介護支援専門員を対象とした4ヶ月毎の公開
研究会(事例検討会)、③ケアマネジメント関連業務に携わる専門職を対象とした年1回のケアマネジメント研究セミナー、
④学術フロンティア研究への参加、⑤現任の介護支援専門員を対象とした不定期のケアマネジメント技術ブラッシュアップ研修
、⑥研究会メンバーによるケアマネジメント学会、在宅ケア学会での学会報告等である。研究会への入会は会費無料であり、
入会に関する特別な資格要件は設けられておらず、メンバーは年に1度、研究会への参加を意思表示することになっている。
研究会の運営には事務局を設置し、会議資料と議事録を作成している。研究会メンバー間の情報伝達にはメーリングリストを
開設し、定例会議の連絡と、会員間の情報交換等が行われている。
本研究では、A研究会におけるネットワークの効果を実証するため、①研究会メンバーへのアンケート調査、②研究会創設時
のメンバー、ケアマネジメント実務に関わっているメンバー、管理・教育に携わっているメンバーという3つのグループへの
インタビュー調査を実施した。このアンケート調査、インタビュー調査の分析結果をもとに、研究会方式によって形成された
ネットワークの効果と、ネットワーク構築の方法と課題について検討を行った。
本研究では、アンケート調査、グループインタビュー調査の2つの調査を実施した。調査対象者への倫理的配慮として、 アンケート調査票を無記名で作成して匿名性を担保するとともに、調査で得られた情報について研究以外には使用しない ことを調査票に記載した。またインタビュー調査では、内容を録音することと、研究成果として発表すること、氏名や 所属先などの個人を特定できる情報は明らかにしないことを説明し、了解を得た。
4.研 究 結 果(1)ネットワークの効果 研究会への参加目的は、ケアマネジメント技術や実践に関する情報収集や意見交換、研究者 の理論や知識を得たいというメンバーの個人的な課題の解消が中心であった。しかし研究会に参加して得られた結果として、 メンバー相互のエンパワメントの機会になり、さらにメンバーがもつ自らのネットワークを研修会企画に反映し、新たな ネットワークへとつながるメゾレベルのネットワークへと拡大しているという効果がみられた。
(2)ネットワークの構築方法 研究会方式によるネットワークの構築方法は、発足段階では、会場の確保と低額の 参加費により参加者が負担を感じず参加できること、入会を誘ってくれる人とのつながりがあることが重要であった。 維持段階では、定例会議や研修会企画、情報交換や研究成果の報告など、参加者が主体的に参加し、成果を実感できる 企画を実施していくことが重要であった。また拡大段階においては、地域と職域を広げた研修を企画し、関連する職種 や学問領域と課題を共有していく取り組みが行われていることが明らかになった。
(3)今後の課題 研究会方式によるネットワークをさらに広げるためには、地域でネットワークの拠点となる機関 や人材が求められる。またネットワークの効果として、サービス対象者への支援の質が向上することを検証することが 今後の課題である。