社会福祉における公的保障システムと私的契約システムの境界
について考える
-両システムをつなぐサブシステムの展望-
○ 田園調布学園大学 金井 守 (会員番号6302)
日本福祉教育専門学校 金井 直子 (会員番号6301)
キーワード: 《公的保障システム》 《私的契約システム》 《境界》
現代社会における新たな貧困、格差問題などを受け、社会福祉施策として全ての人の生存権を保障する公的施策の
確立が求められている。それは、単にセイフティーネットとしてのナショナルミニマムの確保に止まらず、21世紀の
豊かな日本におけるスタンダードな生活の保障でもある。このために、公的な社会保障制度や社会福祉制度をより強固
なものにする必要がある。
一方、これまで福祉サービスを受ける際に伴っていた屈辱感(スティグマ)を払拭し、ごく当たり前に権利として
利用できるように対等な関係を基軸とした市場の論理と契約の仕組みを導入した。これは、サービス利用者の消費者
としての地位を確保するとともに、より多様で質の高いサービス提供へ向けた環境を整備することでもある。
この生存権を保障する公的保障システムと市場の論理としての私的契約システムについて、両システムの存在意義
を確認するとともに、両システムの役割や補完・協働のあり方を考える必要がある。ここでは、介護保険制度における
サービス利用契約のあり方を通して、両システムの相互関係について論述し、両システムをつなぐサブシステムの
あり方を考察する。これにより、サービスの質の確保・向上を通した利用者の生活の質の確保・向上を展望したい。
研究の視点として、以下3点を挙げる。
(1)公的保障と私的契約をシステムとしてとらえること。
(2)両システムの意義と役割を踏まえ、両システムの補完・協働の働きに着目すること。
(3)社会福祉における両システムをつなぐサブシステムとしてのサービスの質の確保システムを展望すること。
研究方法は、以下の通りである。
① 社会福祉における公的保障システムと私的契約システムの位置づけや相互関係にかかる先行研究の調査。
② 日本の介護保険制度におけるサービス利用契約にかかるインタビュー調査。
③ 日本におけるサービスの質の確保にかかる制度状況、先行文献の調査。ドイツにおけるサービスの質の確保にかかる
状況のインタビュー調査。
④ 以上を分析し、考察を加える。
(1)先行研究を利用する場合は、出典及び引用箇所を明示すること。
(2)インタビュー調査において、調査目的を説明し、調査の同意及び調査結果の公表についての同意を得ること。
(3)個人情報の保護のため、本人の同意がない限り個人が特定できないよう加工して公表すること。さらに、 調査資料は、調査目的以外に使用しないこと、研究終了後に速やかに廃棄すること。
4.研 究 結 果
研究の結果、以下の点について議論の素材を提供する。
(1)両システムの相互関係(補完関係)
公的保障システムと私的契約システムが相互に補完する。介護保険制度の各サービスにおける「人員、
設備及び運営の基準」におけるサービス提供拒否の禁止など利用者保護規定の例、施設における本人希望
による外食など公的保障を上回る生活のサポートの例がある。
(2)両システムの相互関係(協働関係)
公的保障システムと私的契約システムが協働する。公的介護保険制度により提供されるサービス内容と費用
負担の説明と同意及び契約締結の例。
(3)両システムをつなぐサブシステムのあり方(協働のシステム化)
①両システムが互いに位置づけを行うこと
公的保障システムとしての介護サービス情報の公表や第三者評価における契約締結の確認・評価の例、提供する
サービスを標準化し標準化されたサービス内容を契約に盛り込む試みの例がある。
②両システムをつなぐサブシステムを整備する方向性
方向として、公的保障システムにサービスの質の確保のシステムを整備し、そこで、サービスの標準化、標準契約書
の提示、契約締結の義務化、事業者によるサービスの質のマネジメント、契約書を対象に含む外部評価等を位置づけ
実施する。これにより、両システムがかみ合い、スムーズな協働を行い展開できる。