高齢者虐待事例における「未婚の同居の息子」の特徴
○ 大阪府立大学人間社会学研究科博士後期課程 水上 然(会員番号6966)
大阪府立大学 黒田 研二(会員番号2797)
キーワード: 《高齢者虐待》 《息子》 《要因》
市町村高齢者虐待防止対応評価モデル(ガイド)を、市町村の実務者、高齢者虐待防止に関わる専門家の協力のもと作成し、市町村で全事例評価(レビュー)を実施した。その評価結果をもとに、相談通報を受けた虐待の中で最も件数の多い息子からの虐待、特に未婚の息子からの虐待の特徴を明らかにしたい。
2.研究の方法実施協力の得られた5市1町2区(人口2~30万人)の各自治体で、平成21年11月,22年2月の2回、新規事例の全事例評価(評価シートの入力、1ケース5分程度の評価会議)を実施した。評価対象は、平成21年4月~22年2月に相談通報のあった全172事例とした。評価シートはエクセル仕様で、予め設定した評価項目(カテゴリー)を選択する形式が主であり、基本項目、初期対応の状況、定期的なレビューなどの領域で構成した。
分析対象は、以下の手順で選択した。まず、虐待がないと判断された20事例、判断に至らなかった10事例、養介護施設事業者に該当しない事業者からの虐待9事例を除いた133事例を虐待認定事例とみなした。認定事例から同居親族の虐待を抽出し、未婚の息子43事例とそれ以外の72事例を比較分析した。
なお、虐待認定事例のうち「未婚の同居の息子」以外の息子からの虐待は、「既婚の同居の息子」が12事例、「別居の息子」が8事例、「施設入所中の高齢者」への「息子」からの虐待が5事例あった。その他の事例は、「夫婦二人世帯」で「夫」からが24事例・「妻」からが6事例、「既婚の子と同居世帯」で「息子の嫁」からが6事例・「息子と嫁」以外からが7事例、「未婚の子と同居世帯」で息子以外からが5事例、「その他の世帯」で虐待を受けている事例が14事例、「別居世帯」での虐待が3事例あった。
本研究は大阪府立大学大学院人間社会学研究科研究倫理委員会の承認を得た。
4.研 究 結 果(1)被虐待高齢者の状況
被虐待高齢者の年齢、性比、介護度、並びに、認知症日常生活自立度については、「未婚の同居の息子」と「それ以外(同居)」の間で有意差はみられなかった。
(2)未婚の同居の息子からの虐待の現状
「未婚の同居の息子」からの虐待の種別であるが、「身体的虐待がメイン」が25%、「身体+経済」が19%、「経済的虐待がメイン」が23%であった。
注)身体的虐待がメイン:身体的虐待をメインとし経済的虐待を含んでいない事例。身体+経済:身体的虐待と経済的虐待を共に含んでいる事例。経済的虐待がメイン:経済的虐待をメインとし身体的虐待を含んでいない事例。身体と経済を含まず:心理的虐待もしくは介護放棄のみ。
(3)未婚の同居の息子からの虐待の特徴
1)息子側の虐待の要因
「未婚の同居の息子」と「それ以外(同居)」について、虐待の第1要因(虐待者側)に違いがみられた。「未婚の同居の息子」では、虐待者の「精神障害」「人格や性格」「その他の疾病・障害」といった項目が虐待の第1要因とされたのに対し、「それ以外(同居)」では、「ストレスやプレッシャー」「知識や情報の不足」などが第1要因とされた。
2)虐待の深刻度(レベル)
虐待のレベルだが、「未婚の同居の息子」では「レベル3」が5事例あったのに対し、「それ以外」では1事例であり、「未婚の同居の息子」では最重度の虐待が多い結果となった。
注)レベル3:生命、心身の健康、生活に関する重大な危険が生じている。 レベル2:生命、心身の健康、生活に著しい影響が生じている。 レベル1:生命、心身の健康、生活への影響が予測される。 (金沢市「高齢者虐待防止マニュアル」P55参照) |
息子からの虐待のうち「同居の既婚の息子」からの虐待は2割弱であったのに対し「同居の未婚の息子」からの虐待は6割を超えていた。「同居の未婚の息子」では、最重度の虐待を含む割合が高い傾向があり、「未婚の同居の息子」への対応が重要であることが示唆された。未婚の息子自身が「精神障害」や「人格的」な課題を抱えていることも多く、介護課題への対応だけでなく、未婚の息子自身への支援のあり方を検討していく必要がある。今後、精神科領域の医療・福祉などと連携をはかると共に、高齢者領域との総合的な支援体制の構築を行う必要があるだろう。
なお、本研究は大阪府からの委託研究「市町村の高齢者虐待防止対策につなげる方策の検討及び支援方法の開発」の成果の一部である。