ポスターセッション高齢者保健福祉  工藤 英明

介護支援専門員の困難事例に対する援助意識の実態

○ 秋田看護福祉大学  工藤 英明 (会員番号6148)
秋田看護福祉大学  宮本 雅央 (会員番号6674)
東京都健康長寿医療センター研究所  児玉 寛子 (会員番号4880)
青森県立保健大学  出雲 祐二(会員番号2179)
キーワード: 《介護支援専門員》 《困難事例》 《援助内容》

1.研 究 目 的

 介護支援専門員の担当するケースには、援助関係が成立せず、援助業務に苦慮する「困難事例」が存在している。先行研究では、困難事例は援助者側の要因、事例の要因、利用者側の要因などが影響していることを指摘している。また援助者側の要因では、価値観や方法論、知識や技術の不足といった個人の資質の観点から指摘している。
 本研究では、介護支援専門員の困難事例への援助内容等に対する自己評価を通じて、その内容を明らかにするとともに、困難事例に関連する介護支援専門員個人の資質以外の要因を検討することを目的とした。

2.研究の視点および方法

 本研究の分析データは、平成21年度にWAMネットに登録されている東日本圏内3県の指定居宅介護支援事業所1222ヶ所に対して、無記名郵送の「介護支援専門員が困難と感じる事例に関する調査」で得られたデータを用いた。この調査では、1事業所に対して所属する2名の介護支援専門員に回答を求めた。
 分析対象は、本調査の有効回収票1145票のうち、「現在困難と感じている事例を抱えている」と回答した746票とした。
 分析項目は、独立変数として介護支援専門員の年齢、実務経験年数、担当ケース数、従属変数として、①問題の所在など困難事例の概要9項目、②困難事例の利用者や家族の状況17項目、③困難事例に対する援助内容13項目、④困難を感じた時の援助者の状況19項目の回答を使用した。従属変数の項目は、それぞれ4段階の回答を2群に分類した。介護支援専門員の年齢、実務経験年数、担当ケース数は、それぞれ平均点を算出しカットラインとし、2群に分類した上でfisherの直接法によるχ2検定(両側確率)を行った。⑤援助の自己評価については10点満点で評価を得、年齢、実務経験年数、担当ケース数とそれぞれt検定を行った。

3.倫理的配慮

 調査の実施は、報告者の所属機関にて倫理審査を経たうえで実施した。調査対象者に対 しては調査の目的、個人情報の取り扱い、調査票の処分方法、データの取り扱い、調査が任意である説明を書面で行い、無記名で実施し回収をもって同意とみなした。

4.研 究 結 果

(1)介護支援専門員の属性(n=746)
 介護支援専門員の性別は、男性154名(20.8%)、女性585名(79.2%)であった。平均年齢は44.16±8.9歳、平均実務経験年数は5.4±2.7年、平均担当ケース数は32.12±9.67ケースであった。
(2)年齢との関連
 年齢との関連は、①困難事例の内容9項目のうち「利用者・家族・援助者三者の関係性が影響していた」の項目で、年齢が低い群でその割合が有意に高かった(p<.05)。②困難事例の利用者や家族の状況17項目では、いずれも関連が認められなかった。③困難事例に対する援助内容13項目のうち「ケースに接した後達成感を感じない」の項目で、年齢が高い群でその割合が有意に高かった(p<.05)。④困難を感じた時の援助者の状況19項目のうち「援助の判断に迷う」(p<.001)、「自分が困難してしまう」(p<.001)、「家族問題への介入がわからない」(p<.001)の3項目で、いずれも年齢の低い群でその割合が有意に高かった。
(3)実務経験年数との関連
 実務経験年数との関連では、④困難を感じた時の援助者の状況19項目のうち、「援助の判断に迷う」(p<.01)、「自分が困難してしまう」(p<.001)、「家族問題への介入がわからない」(p<.001)、「金銭問題への介入がわからない」(p<.01)の4項目で、実務経験年数の短い群でその割合が有意に高かった。
(4)担当ケース数との関連
 担当ケース数との関連では、③困難事例に対する援助内容13項目のうち、「利用者の意見を否定したことがある」(p<.05)、「利用者よりも援助者が困る」(p<.05)、「サービス提供機関からの苦情」(p<.01)、「地域包括支援センターへ相談」(p<.05)、「関係機関とのカンファレンス実施」(p<.001)の5項目でいずれも担当ケース数の多い群でその割合が有意に高かった。④困難を感じた時の援助者の状況19項目のうち、「依存による心理的負担」(p<.01)、「援助に最大限の工夫をした」(p<.001)の2項目で担当ケースの多い群でその割合が高く、有意な関連が認められた。
(5)援助の自己評価
 困難事例に対する自己評価では、平均年齢以下(n=434)では、4.96±1.97点、平均年齢以上(n=479)では5.55±1.94点で、年齢が高い群で有意に自己評価が高かった(p<.001)。実務経験年数との関連では、平均以下(n=505)の群で5.12±1.88点、平均以上(n=408)の群で5.45±2.07点で、経験年数が多い群で有意に自己評価が高かった(p<.05)。担当ケース数との関連では、平均以下(n=361)で5.12±2.06点、平均以上(n=552)で5.37±1.91点で有意な関連は認められなかった。
 以上の結果から困難事例は、介護支援専門員の資質以外にも年齢や実務経験年数、担当ケース数などの関連が示唆された。
 ※本研究は、文部科学省補助金基盤(C)H20-22「介護支援専門員の困難事例に対するイメージと表象の分析」の研究成果の一部である。

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