ポスターセッション高齢者保健福祉  児玉 寛子

虐待者と被虐待者の関係性
 -母親への経済的搾取が認められる息子の事例から-

○ 東京都健康長寿医療センター研究所  児玉 寛子 (会員番号4880)
秋田看護福祉大学  工藤 英明 (会員番号6146)
秋田看護福祉大学 宮本 雅央 (会員番号6674))
青森県立保健大学  出雲 祐二 (会員番号2179)
キーワード: 《経済的虐待》 《母と息子》 《人間関係》

1.研 究 目 的

 先行する多くの高齢者虐待実態調査から、ひとつの要因として「虐待者と被虐待者の人間関係」が報告されている。しかし「具体的にどのような関係性が虐待行為と結びつくのか」という点においては、統計的データを裏付ける意味も含め、個々の事例検討を積み重ねながら検証し、さらに新たな知見を見出していく必要がある。
 そこで本報告では、経済的虐待の事例を取り上げ、虐待者と被虐待者の言動や行動・態度に着目しつつ、虐待者と被虐待者の関係性について検討する。

2.研究の視点および方法

 本調査への協力に同意を得た地域包括支援センター・社会福祉士(以下、援助者)4名に対して、「現在も支援継続中で中心的に関与している虐待事例(一人1事例)」を提供してもらった。調査方法はケース記録閲覧および援助者へのインタビュー調査とした。ケース記録は、援助者が事例に関わり始めた時期から現在までのものとし、個人が特定されるような部分を事前に塗りつぶしてもらったうえで複写を閲覧した。インタビュー調査は平成20年8月から平成21年1月までの間に各3回実施した。なお本報告では、4事例中、報告者が担当した2事例を対象とした。
 分析は、ケース記録および援助者へのインタビュー結果の中から虐待者と被虐待者の言動や行動・態度に着目し、虐待者と被虐待者の関係性に関連していると思われる内容を抽出してケーススタディの手法を用いて検討した。  

3.倫理的配慮

 援助者および援助者の所属機関に対して研究の趣旨を説明し、調査協力への同意を得た。また発表者の所属機関(調査実施当時)の倫理委員会審査にて承認を得た。 

4.研 究 結 果

(1)事例のまとめ
①事例A
被虐待者:女性80歳、持家に独居、要介護1、認知症レベルⅡb、年金55万円/2ヶ月
虐待者:息子50代、単身(離婚歴あり)、職業不詳、居住先不明、複数業者から借金
 息子は被虐待者(以下、Aさん)の通帳と印鑑を持ち出した上、Aさんを恫喝しては現金を要求。Aさんは動揺し怯えつつも要求に応じていた。当初は親戚も協力的であったが、その後、関与を拒否。Aさんは息子の帰省後、自宅から現金が紛失した際に「自分の家に泥棒がいるかと思うと情けない」と話しつつも息子を疑うような言動はない。成年後見申立は息子が一方的に取下げている。Aさんは徐々に認知症状が進行し支援が必要な状況にあるが、息子からAさんの今後に関する言動や態度は確認できない。
②事例B
被虐待者:女性70歳、持家に息子と同居、要支援、胃ガン、年金13万円/2ヶ月
虐待者:息子50代、単身(離婚歴あり)、無職、ギャンブルによる借金
 息子は一人っ子で被虐待者(以下、Bさん)から溺愛されて育つ。息子は無収入で治療費が出せず通院させていない自分を「犯罪者になるのかもしれない」と話すが、ギャンブルは止めていない。Bさんは「自分がダメだから(息子に)迷惑をかけている」と息子を擁護する言動のみである。Bさんの介護は親戚に任せきりで息子は関与していない。最終的にBさんは病状が悪化し、緊急入院ののち肺ガンで死亡した。
(2)事例の考察
 虐待者と被虐待者との関係性の視点から2事例を検討した結果、共通する特徴が認められた(ここでは主だった点についてのみ述べる)。一つ目は「共依存的な関係」である。本事例の虐待者にとって経済的依存のターゲットは身体および認知能力の低下した母親のみであり、一方、被虐待者にとっての息子は唯一の家族として関係を断ち切ることのできない存在であった。このような「つながっていなければならない状況」が共依存的な関係を生み、虐待の温床となっている様子がうかがわれた。二つ目には虐待者は加害者意識が乏しく、被虐待者においても被害者意識が明確に確認できなかった。いわゆる負の連鎖ともう言うべき状況が虐待行為を助長していたのではないかと推察される。ただし、これらはすでに先行研究1)2)によって報告されており、本事例の検討によってもそれらが裏付けられたといえる。一方、2事例では被虐待者との居住形態が異なっており、また親族および近隣との関わりも異なる背景が認められた。関係性を検討する上では、これらの差異も重要な視点につながるのではないかと考えられた。
 なお本研究は、平成19~21年度科研費基盤研究(C)助成「在宅高齢者における虐待メカニズムの解明と虐待予防への予防・介入アプローチ)」の研究成果の一部である。

5.参考文献

1)金子善彦(2005)「高齢者虐待と家族-高齢者本人へのアンケート調査と家族関係危険因子評価表についてー」『老年精神医学雑誌』16(2),194-204.
2)鵜沼憲晴・関根 薫(2007)「虐待者である「息子」の特徴と高齢者虐待防止への視点-研修参加訪問介護員へのアンケート調査からの知見-」『社会福祉学』47(4),111-123.  

↑ このページのトップへ

トップページへ戻る


お問い合わせ先

第58回秋季大会事務局(日本福祉大学)
〒470-3295 愛知県知多郡美浜町奥田
日本福祉大学 美浜キャンパス

受付窓口

〒170-0004
東京都豊島区北大塚 3-21-10 アーバン大塚3階

株式会社ガリレオ 学会業務情報化センター内
日本社会福祉学会 第58回秋季大会 係

Fax:03-5907-6364
E-mail: taikai.jsssw@ml.gakkai.ne.jp