グループホーム職員のターミナルケアに対する意識
○ 広島国際大学 塩谷 久子 (会員番号3934)
広島県社会福祉協議会 寺西 通子 (会員番号7706)
キーワード: 《グループホーム》 《ターミナルケア》 《職員の不安要因》
近年の高齢者のターミナルケアにおいて,終末期の場所は多様化しており,家庭的な雰囲気の中で生活を継続することを目的としているグループホームにおいても,ターミナルケアのニーズが高まっている.しかし,ターミナル実施についてはグループホーム自体の歴史が浅いため経験の蓄積が少なく,人員配置や医療との連携など制度上の問題も多い.さらに,施設毎にターミナルの実施に対する方針が異なるなど,さまざまな課題があり,現場の職員は実施に不安を抱いている.本研究は,グループホームでの取り組みの現状から職員のターミナルケアに関する意識,特に不安要因を明らかにすることを目的とした.
2.研究の視点および方法研究の視点:高齢者のターミナルケアは「医療ケア」として捉えるのではなく,生きる延長線上のものとして,「生活モデル」の視点で看取ることが重要であると考える.そこで,生活の場であるグループホームにおいて,より良いターミナルケアが可能な環境を整えるための課題を明らかにするため,本調査に取り組んだ.
調査方法:A県B市近郊の200施設のグループホームに従事する介護主任(1事業所1名)を対象として,アンケート調査票の郵送による調査を行った.回収数は76件(回収率38.0%)であり,そのうち有効回答71件(35.5%)を分析に用いた.調査期間は2008年7月23日から2008年10月31日である.
回答者の個人情報保護の視点から,回答は無記名であり,かつ統計的に処理するため,個人が特定されないことや,調査結果が研究以外の目的に用いることはないことを調査票に明記した.
4.研 究 結 果1) 事業所の基本属性
ターミナルケア実施事業所は33事業所(回答数の46.5%)である.2007年度1年間の看取件数は26件で,1施設あたりの平均が0.8件であった.ターミナルケア実施事業所を法人格別にみると,多い順に「株式会社」11事業所,「医療法人」8事業所,「有限会社」7事業所であった.実施事業所の開設年数では「6~10年」の事業所が「1~5年」の事業所よりも実施率が高かった(p=0.05).
2) 回答者の基本属性と不安の関連性
回答者はグループホーム介護職員主任である.性別は男性23名(32.4%),女性48名(67.6%)である.年齢構成は多い順に50歳代21人(29.6%),40歳代17人(23.9%),30歳代15人(21.1%),60歳以上10人(14.1%),20歳代8人(11.3%)である.平均年齢47.3(±9.8)歳である.経験年数の平均は8.9(±5.5)年である.
ターミナルケアにおける職員の不安と実施事業所法人格との関係を見ると,「社会福祉法人」「株式会社」「有限会社」の職員に不安が強かった(p=0.05).性別,年齢,経験年数では優位差はなかった.
3) 抽出された不安要因のカテゴリー
不安要因として「人員配置」「連携」「介護職員自身の不安」の3つが明らかになった.
「人員配置」に関する職員の不安は「現在の人員配置では夜間の業務負担が大きい」「現在の人員配置では日中の業務負担が大きい」が各々16件(55.1%複数回答)で多かった.
「連携」についての不安はグループホームには医療職の配置基準がないため「夜間の医師・訪問看護師との連携不足で対応が十分に行えない」11件(37.9%複数回答)であった.
「介護職員自身の不安」では「ターミナルケアに関する知識・技術不足」22件(75.9%複数回答),「看取り経験のない職員の精神的不安」21件(72.4%複数回答),「本人や家族の満足のいくターミナルケアが行えているかどうか不安」15件(51.7%複数回答)であった.従来の介護福祉士教育ではターミナルに関する時間数,項目数が少なく,今後の現場での研修項目の吟味が重要である(注:調査対象者は旧カリキュラム修了である).
4) ターミナルケアの関連事項
「ターミナルケア実施後の満足度」については「満足している」が22件(66.7%)であった.「満足していない・わからない」11件(33.3%)の理由は「医療連携の不十分」「多忙で充分なかかわりができなかった」があがっていた.その他,同一組織内の支援体制,訪問看護との連携,家族への終末期の意向確認,お別れ会,グリーフケアについて質問し,それぞれの現状を把握した.
5) 結論と今後の課題
現在実施していない施設で「条件が整えば実施したい」という回答は24件(63.2%)であった.この条件とは以下複数回答であるが「本人・家族からの要望がある」23件(95.8%),「人員配置が充分にある」9件(64.9%),「夜間の医療職との連携ができる」8件(33.3%),「ターミナルケアに関する知識・技術がある」19件(79.2%)であった.
以上のことから,不安要因の解消が必要であることが明らかであるが,そのためには,人員や医療連携に関する制度上の問題点の解決に加えて,職場研修体制,内容の見直しによる研修の充実が必要であろう.