ポスターセッション医療保健・医療福祉  川勾 亜紀奈

小児がん患児に対するソーシャルワーカーによる支援の現状と課題
 -教育支援をはじめとする心理社会的支援-

○ 函館大学  川勾 亜紀奈 (会員番号7028)
キーワード: 《小児がん》 《ソーシャルワーカー》 《教育支援》 《心理社会的支援》

1.研 究 目 的

 現在,小児がんの治癒率は約7割を超えるとされており,多くの小児がん患児が社会復帰を遂げている.しかし,治療中は入退院を繰り返すことが多く,入院期間は長期に渡ることが少なくない.長期の入院生活の中で患児やその家族が抱える心理的・社会的問題に関する援助はもちろんのこと,復学に関する援助についても医療ソーシャルワーカー(以下,「MSW」)業務指針に銘記されている援助の一つである.しかしながら,復学を含めた患児の教育に関わる援助(以下,「教育支援」)について,MSWをはじめとするソーシャルワーカー(以下,「SW」)の視点から行われた先行研究はわずかであり,現状ではSWによる教育支援が十分ではないことが推測される.これは,その他の心理社会的支援についても同様である.
 そこで本研究では,MSWによる教育支援をはじめとする患児への支援の現状とMSWに求められている支援の内容を明らかにし,今後の課題について検討することを目的とした.  

2.研究の視点および方法

 1)研究参加者:「財団法人がんの子供を守る会(以下,「守る会」)に所属するSW1名,院内学級を有する病院に勤務する医師2名,看護師5名,MSW1名,院内学級の担任教師2名,計11名である.なお,守る会会員1名(患児の家族)にも参加していただいたが,これはデータ分析の信頼性・妥当性を高めることが目的でありデータ分析の対象とはしていない.
 2)データの収集:2006年7月~9月の約2ヶ月に渡ってデータを収集した.データ収集法は半構造化面接とし,研究者1名が研究参加者全員の面接を行った.面接内容は,研究参加者の同意を得た上でICレコーダーに録音し,録音記録から逐語録を作成した.
 3)分析方法:逐語録を数回熟読した上で,逐語録に意味内容を損なわない単位で分析単位を設定し,それぞれの意味内容に応じてコードを作成した.研究参加者の属性ごとに類似するコードをカテゴリ化し,これをサブカテゴリとした.全サブカテゴリを比較検討し,カテゴリ,コアカテゴリを抽出した.分析の過程では,繰り返し逐語録を顧みて分析内容が適切かを検討することで妥当性の確保に努めた.           

3.倫理的配慮

 研究参加者に対し,研究の趣旨および研究への参加拒否や途中放棄が可能であること,調査を通して得られた情報が本研究以外の目的で使用されないこと等を文書と口頭で説明し,同意を得た。なお,一部の研究参加者については,その所属する機関の倫理審査委員会による審査を経た後に研究実施に対する同意を得た. 

4.研 究 結 果

 分析の結果,【介入を阻むもの】【未知の領域】【SWが介入することへの期待】【小児科におけるソーシャルワーク】という4つのコアカテゴリが抽出され,「小児がん患児へのSWによる支援の現状」と「小児がん患児に対するSWによる支援への期待」の2つに分類された.
1)小児がん患児へのSWによる支援の現状
 現状では,小児がん患児への教育支援だけでなく,小児がん患児を含めた小児科の患者全体への支援自体がほとんど行われていないことが明らかとなった.また,SWは,小児科領域を【未知の領域】と捉えていた.
2)小児がん患児に対するSWによる支援への期待
 小児がん患児への支援において,SWが〔専門性を生かした役割〕を果たすことへの期待などの【SWが介入することへの期待】があることが明らかとなった.〔小児科領域におけるソーシャルワーク業務の可能性〕も見出されており,その一つとして,小児がん患児の教育支援におけるコーディネーターの役割を果たすことがあげられる.
3)全体像
 小児がん患児への関わりが少ないのは,患児やその家族および医療関係者らのSWに対する認識不足が大きな要因の一つであると考えられる.〔SWの認知不足〕が〔相談援助の壁〕となり(【介入を阻むもの】),小児がん患児やその家族からのSWへの相談が少ない要因の一つとなっている.相談が少ないゆえに小児がん患児らのニーズを把握しづらい状況となっており,SWにとっても小児科が【未知の領域】となってしまっているものと思われる.この【介入を阻むもの】と【未知の領域】の2つが,【小児科におけるソーシャルワーク】において,小児科を〔特殊な領域〕とSWに考えさせる要因の一つとなっているものと考えられる.一方で,【SWが介入することへの期待】があることから,SWによる患児への支援を展開していく可能性は十分にあることが窺える.
 SWへの理解を促すとともに,小児がん患児らのニーズを探り,教育支援をはじめとするさまざまな支援におけるSWの役割について検討していくことが今後の課題であると考える.           

          

※【 】コアカテゴリ,〔 〕カテゴリ.           

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