ポスターセッション医療保健・医療福祉  大屋 純子

医療費未払いの解決に向けた介入

○ 済生会みすみ病院 大屋 純子 (会員番号5160)
キーワード: 《医療費未払い》 《アウトリーチ》 《無料低額診療事業》

1.研 究 目 的

昨今の経済情勢の悪化による生活困窮や、一部の受診者のモラルの低下などにより"医療費の未払い"が問題となっている。平成20年度に厚生労働省が設置した「医療機関の未収金問題に関する検討会」では、医療費の未払いの主な発生要因として「生活困窮」、「悪質滞納」などを挙げている。また、医療費未払いが医療機関の経営を圧迫する事態も生まれている。
  当院では医療費未払いを解決する過程で状況に応じてソーシャルワーカー(以下SW)が介入する仕組みを構築し運用している。特に生活困窮などの経済的問題があると推測される場合には、医療費請求を担う事務部門と連携しながら、支払いに向けた協議だけではなくクライアントの生活課題の解決を目的に援助活動を行っている。 今回はこの活動をふり返り、生活困窮が推測されるクライアントに対してSWが介入したことでどのような効果が生まれたのか検討を行った。   

2.研究の視点および方法

方法として、当院の入院・外来患者のうち平成19年度~21年度で医療費が未払い状態となりSWが介入した42例について後ろ向きに調査を行った。調査方法としては過去の相談記録や診療録を再検証し、クライアント側の生活課題と解決の過程で行った援助活動を整理し質的分析を行った。 

3.倫理的配慮

今回の研究ではプライバシー保護の観点から個人が特定されないように匿名化を行った。なお、この研究は当院の医療倫理委員会から承認を受けている。 

4.研 究 結 果

対象はクライアント42例で、その内訳は、医療費の自己負担割合が3割となる69歳未満が36例であった。生活背景として、就業していないものが14例、家族も含め収入がないものが15例であった。何らかの負債を抱えているものが27例であった。
  これらのクライアントで特に印象的であったものを以下に示す。先ず、高額療養費制度で医療費の払戻を受けるためには窓口の自己負担額3割を一旦負担しなければならない。しかし、自己負担金額を支払うことができないため、払戻の手続きに至っていない症例が10例認められた。また、平成19年度以降は限度額適用認定証の仕組みが利用できるようになったが国民健康保険料の滞納が理由でその制度の利用ができず、支払いが滞り医療機関の受診を控えている症例も見受けられた。
  SWが介入したケースについて援助活動を整理し、質的分析を行った。
  SWの介入方法として、①自宅訪問を実施し交渉したケースが26例、②電話等で来院を促し院内で交渉をしたケースが16例であった。援助内容として①無料低額診療事業の情報提供・利用にむけた援助を行ったケースが31例、②「経済的問題の解決、調整」として生活保護に関する情報提供をしたケースが26例、③高額療養費の払戻にむけた行政との交渉を行ったケースが10例、④手続きの同行をしたケースが8例であった。
  当院における"未払い"の形態の1つとして、種々の事情により困窮状態となり窓口負担金額を支払えず、それに伴って高額療養費制度などの払戻を受けられないクライアントの存在が浮かび上がった。特に、自己負担割合が3割で、かつ中高年齢者が半数以上を占めていた。種々の事情としては、収入の減少、不安定な雇用環境、多重債務などが考えられ、クライアントにとっては、「その日一日を生活するのに精一杯の状況が続いている」ことが、背景として隠れていることが分かってきた。このようなクライアントは、疾病に罹患することにより、医療費の支払いがさらに困難になり、"未払いの長期化"、つまり、"経済的問題の負の連鎖"に陥りやすいことが考えられた。
  ところで、SWの業務範囲である「経済的問題の解決、調整援助」、「受診・受療援助」、「社会復帰援助」、などを有効に活用することで、生活困窮を理由とした"未払い"の解決と生活再建にむけて有効に働くと考えられた。その根拠として、SWが介入したことで、未払いの問題が解決し、生活保護の申請を行い、受給に至ったケースが挙げられる。このケースは、生活保護の受給により経済的問題が解決し、途絶えていた通院加療を再開することで、健康的な生活の獲得にもつながった例である。
  今回の研究では、生活困窮が推測される未払いの症例に対しては、医療機関側から訪問などアウトリーチを行うことが問題解決の1つの方法であることが示唆された。そのためには、クライアントとの関係を築いた上で、生活全体の問題を整理し、未払いを含めた問題解決策をクライアントとともに実施していくことが重要である。また、医療機関の事務部門から定期的な支払いの督促も必要ではあるが、そこにSWも参画することでクライアントの生活課題に着目した解決方法が見いだせる可能性があることが示唆された。今後は"未払い"の状態になる前に介入できる方策を検討し、未払い予防の視点からの取り組みを実施することを予定している。  

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