ポスターセッション所得保障・公的扶助  髙井 由起子

生活保護ケースワーカーの対人援助業務に対する意欲と負担感に関する研究
               追跡調査結果を中心として 

○ 関西学院大学教育学部 髙井 由起子 (会員番号2729)
キーワード: 《生活保護》 《ソーシャルワーク》 《専門職》

1.研 究 目 的

 2008年度の被生活保護世帯数が114万8766世帯となり、過去最多となった。2007年度に比較して、4万3491世帯増加している。世帯類型別では「高齢者」が52万3840世帯、「障害者・傷病者」が40万7095世帯、「母子」が9万3408世帯、「その他」が12万1570世帯となっている(株式会社福祉新聞社「週刊福祉新聞2009年10月19日号」)。
 このような状況の中で、生活保護ケースワーカーの業務内容は増加の一途をたどることは想像に難くない。被保護者のみならず、被保護者を支援する立場にあるケースワーカーの現状が厳しさを増す今日、生活保護ケースワーカーは年数を重ねるごとにどのような意識をもって支援にあたるのかという問題意識に基づき、生活保護ケースワーカーインタビューを通して聞き取り調査を実施した。           

2.研究の視点および方法

 被保護者のみならず、被保護者を支援する立場にあるケースワーカーの現状が厳しさを増す今日、生活保護ケースワーカーは年数を重ねるごとにどのような意識をもって支援にあたるのかという問題意識に基づき調査を実施した。具体的には、2007年に調査協力いただいた生活保護ケースワーカーのうち、2009年10月現在、継続してワーカー業務あるいは関連業務に従事している方に対し、インタビューを通して聞き取り調査を実施した。このことにより、ケースワーカーの業務内容に対して、職歴を重ねることにより、どのように意識が変容するか、またそうでないかを明確にすることを目的とした。
 フェイスシートとして、2007年調査と同様、①経験年数、②大学等での専攻、③資格、④前任部署、⑤年齢、性別、⑥担当数及び持ちケースの負担感、とした。そして質問項目としても2007年調査と同様、①仕事に対するやりがい、②仕事上ストレスを感じること、③困難性を感じること、④関係機関との連携について、⑤被保護者に指導・助言する時配慮している事、⑥業務に関する研修についての考え、⑦必要と思われる知識、技術について、⑧現業配属希望有無、⑨異動希望、等についてとした。
 調査方法は、調査表の質問項目に従い筆者が直接聞き取りを行なった。そして承諾の上、インタビュー内容を録音し、収集したデータを構造構成的質的研究法(西條 2007)の手法を参考に分析した。具体的には、収集した内容を構造構成的質的研究法(西條 2007)の分析手順に沿ってカード化し、さらにそれらをKJ法(川喜田 1970)の手法を参考に分類した。  

3.倫理的配慮

 本研究の倫理的配慮として、インタビュー対象者の個人や所属が明らかにされることのないよう詳細を分類することとした。また、協力者に対し、調査結果の報告や研究発表を行うにあたっては個人等が特定される内容とはしないことについて説明し、協力者全員から了解を得た。 

4.研 究 結 果

(1)ケースワーカー経験年数、大学等での専攻等
 調査期間は2009年10月、A県下4箇所の福祉事務所にて、B、C福祉事務所では1名ずつ(うちB福祉事務所の1名はD福祉事務所より異動)、D福祉事務所では6名に対して、D福祉事務所では4名に対して調査を実施した。
 今回の対象者について、ワーカーとしての経験年数は、6年未満である。平均4.6年となっている。また、大学等での専攻は社会福祉専攻者は12名中6名である。それ以外は、法学が3名、心理学、経済学、社会学がそれぞれ1名である。全員が大学卒以上の学歴で、大学院修士課程修了者1名が含まれている。また、社会福祉士有資格者は4名である。その内3名は精神保健福祉士、保育士、福祉住環境コーデイネーターの資格をそれぞれ併せ持つ。全国福祉事務所現況調査と比較しても生活保護ケースワーカーの社会福祉主事任用有資格が75%、また社会福祉士では4%といわれている実情に比較すると、今回の調査対象者は高学歴と専門職採用者が多い傾向にある。担当ケース数については2名を除いて標準数80世帯を上回っている。担当ケースがない2名のうち、1名は保護費算出業務に2009年4月より就任、1名は査察指導員に2009年4月より就任していた。
(2)生活保護ケースワークに関する意識等について-前回の調査結果との比較を通して
 まず、生活保護ケースワーカーとして仕事に対するやりがいについて聞き取ったところ、前回の調査結果では、全般的には「被保護者からの感謝の言葉をもらえたとき」「就職し、自立してくケース」が多い結果であった。なかでも前回は社会福祉士有資格者(以下、社会福祉士者とする)は「就職し、自立していくケースに立ち会えたとき」という回答が多く、社会福祉主事有資格者(以下、社会福祉主事者とする)は「被保護者からの感謝の言葉をもらえたとき」と回答する傾向があった。しかし、今回の調査結果では、資格に関係なく、全般的に「就職し、自立していくケースに立ち会えたとき」と回答する傾向となった。
 また、身につけたい知識、技術、必要と思われる知識、技術について聞き取ったところ、前回の調査結果では、「ストレスマネジメント」「他法、他の制度の最新情報」などが多くあげられていた。また面接技法関係の習得もケースワークするうえで重要視されているのが注目されるところであった。そして今回の調査結果でも資格等に関係なく、全体的に「他法、他の制度の最新情報」「手続きの方法」などがあがり、ソーシャルワークに関する技術の習得よりも、制度や他法の手続き等の知識を吸収する事により円滑に業務遂行することを重視している事がうかがえた。           

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