介護専門職の就労促進に資する国際基準と養成プログラムの開発
○ 城西国際大学 石田 路子 (会員番号6147)
キーワード: 《国際介護時代》 《国際介護基準 》 《専門職養成プログラム》
現在、大学・短大等で福祉を専攻しながら、卒業後に福祉または介護分野へ就職する学生の数が減少し続けている。福祉・介護分野における就労は、コムスン事件以降のマスコミによるネガティブキャンペーンの影響からマイナスイメージが根強いため、特に若年層の人材不足が慢性化している。この状況に対応すべく、緊急雇用対策による失業者やEPAによる外国人労働者を労働力補充とする施策が行われているが、これは必ずしも質の高い福祉・介護サービスの確保に直結せず、また福祉・介護分野の就労者の社会的地位や待遇を高めることにつながっていないため、学生たちの就労意欲を低める結果となっている。
いま、福祉及び介護専門職の質的向上のみならず社会的地位の向上に努める必要があり、とくに4年制大学で社会福祉・介護福祉を学ぶ学生が国際的にも通用する高い指導力・経営力・技術力を身につけ、自信と自覚を持って福祉及び介護専門職への就労意欲を高める条件を整備する必要がある。そして、より多くの優れた人材が福祉・介護分野へ就労することを促進するとともに、それらの人材が定着して指導者としての力を発揮できる就労環境を整えていくことも重要である。
国際介護時代の幕開けといわれている今、介護に関しては「尊厳の保持」と「自立支援」に基づく我が国の介護福祉論を基盤にした介護国際基準(Global Standards of Care)を設け、アジア地域から入国して日本で介護分野に就労する外国人にも適用できる介護技術スキル、コミュニケーションスキル、多職種連携スキル等々に関する到達度を照合しながら測っていくプログラムを創る必要がある。また、介護の国際基準を設定することと並行して、介護専門職を養成するためのプログラムも開発していかなければならない。介護分野への就労を希望する外国人労働者を育成できる指導者を養成し、新たな就労ルートを開拓していくことも必要である。
以上の状況を踏まえ、本研究では、介護人材の日本就労を積極的に進めているフィリピン、今後は急速な高齢化が進み、高齢者介護の問題が深刻化すると予測される中国、さらに福祉先進国であるノルウェー、フィンランドの4カ国における現地調査によって収集したデータを分析するとともに、日本における介護専門職の資格・技術・養成方法・社会的地位及び待遇等と比較検討しながら、国際介護基準の設置と専門職養成プログラムの開発を目的としている。
本研究では、国際介護基準の必要性と、その在り方について述べる前に、「介護」に関する概念規定についてまとめている。つまり、介護は「その人の、その時点での可能な限りの生活の再構築を行うものであり、人がよく生きるためのものである」という概念規定をしたうえで、介護の原理を「尊厳の保持」と「自己実現」で説明している。
介護の役割と機能の側面については、「尊厳の保持」という側面から、利用者理解(その人らしさ、QOL・生活状況、主訴、健康状態など)、文化的背景の理解(生活環境、ライフスタイル、生活歴など)、権利擁護等が考えられ、「自己実現」では、自己決定の保障、潜在能力の発見と活用(居住環境、ADL、IADL、認知能力、コミュニケーション能力、家族等の介護力)、自立性の拡大等があげられる。これらの各項目は、国際介護基準における項目づくりの指標となる。また、介護専門職の養成については、専門介護を「身体的・心理的・社会的・精神的及び環境的要素を組み合わせた総合的なもの」と定義したうえで、日本を含む5カ国の現状と課題、今後の方向性や展望を比較調査し、国際介護基準の設置と専門職養成プログラムの開発に取り組んだ。
本論文におけるテーマについて、本学姉妹提携大学を含む4大学の関係者から協力を得ており、各国の介護現場状況に関するデータおよび専門職養成についての情報等は、調査の目標を十分説明したうえで提出してもらったものである。さらに、記録データとしての写真などについても使用許可を得ており、個人情報を含むすべて倫理上の問題に抵触しないよう配慮した。【協力大学:オスロ大学(ノルウェー)、北カレリア応用科学大学(フィンランド)、大連外国語大学(中国)、セブ医科大学(フィリピン)】
4.研 究 結 果 国際介護基準については、「尊厳の保持」及び「自己実現」の側面から基準項目を抽出するとともに、その評価表(チェック項目による)を作成する。また、介護専門職養成プログラムの開発に際しては、「専門介護」を「身体的・心理的・社会的・精神的及び環境的要素を組み合わせた総合的なもの」と規定したうえで、介護専門職養成に関わるプログラムを次の4つの内容から作成する。
①専門職の役割・機能・業務内容(医療的行為を含む)
②専門職の技術(介護過程:アセスメント、PDCAの展開、生活支援技術など)
③教育・研修システムの確立(養成とフォローアップ、スキルアップ、キャリアパス)
④関連多職種の理解と連携(チームケアなど ← IPW、IPE)
さらに、介護専門職の社会的地位の向上を目指すために、以下の4つについても言及する。
①専門性の確保(←法制度、資格制度)
②社会的理解(=合意)の形成
③専門性のキャリアパス・システム(専門性の評価)
④待遇基準の確立(看護職と同等以上の地位・待遇を確保する)
以上のような研究成果に基づいて、我が国における介護専門職の就労支援に資する国際介護基準を実現し、介護専門職養成のためのプログラムを展開していくためには、本論文で定義した「介護」に基づく介護ビジョンを確立し、福祉教育・啓発活動による意識づくりや、介護政策の開発・実施による法制度等の整備が必要である。