高齢者を「支え合う」地域見守り活動の課題
-フォーマルネットワークとインフォーマルネットワークの再構築-
○ 関西福祉科学大学 斉藤 千鶴(会員番号0994)
神戸女学院大学 峯本 佳世子 (会員番号1189)
キーワード: 《見守り推進員》 《孤独死》 《地域ネットワーク》
超高齢社会における高齢者のケアシステムを構築することは、焦眉の課題である。また高齢者の「孤独死」の問題も深刻化している。かつては、過疎地域での高齢化率の高さに注目が集まり、過疎地域における高齢者ケアのあり方が課題とされた。しかし現代では、都会の大規模団地の入居者減少により単身男性や高齢者の「孤独死」の発生が増加している。都会のある地域に生まれたいわゆる「限界集落」が増え、地域で高齢者をどのようにして見守るのかが全国各地で大きな課題となっている。
今後20年後、30年後の日本における高齢者の地域見守り、孤独死防止の体制づくりとして各地の地域ネットワーク構築実践は関心を集めている。本報告は、孤独死防止や介護予防につながる地域の高齢者の見守り活動に取り組むB市をとりあげ、地域包括支援センターに特別に配置している「見守り推進員」の活動を調査することを通して、その役割と課題を明らかにした。
2001年に始められたB市における地域見守りは、阪神淡路大震災後の高齢者の孤立や孤独死が社会的問題になったことが背景にある。あらたに転居した住宅、あらたな地域での生活は、あらたな人間関係や地域のつながりの構築を必要とする。しかし、高齢者にとって、慣れない環境に加え、さらなる心身の機能低下が進行するなかにあっては、高齢者の不安は増大するばかりである。
B市の地域見守り活動では、当初、在宅介護支援センターに見守り推進員を配置し、さらに高齢者を訪問する見守りサポーターやLSA等が連携をとり、高齢者の安否確認をおこなってきた。その後、介護保険制度の改正にともない2006年から見守りサポーターと見守り推進員を統合して各地域包括支援センターに「見守り推進員」を配置するようになった。安否確認や孤独死防止といった活動目的や内容は変わらないが、介護予防の役割を果たすことも期待されている。したがった、本研究では、この活動と孤独死および防止の実態をみることおよび活動の課題を明らかにすることをとおしてこれからの地域見守り、ネットワーク構築に貢献できるのではないかという点に着目した。
研究方法は、B市見守り推進員へのアンケー調査である。調査内容は、基本属性の他に、
(1)「孤独死、独居死、予防的発見、早期発見等の経験
(2)地域見守り活動についての成果
(3)地域見守り活動における困難
(4)地域見守り活動における課題
である。実施は2009年1月に見守り推進員研修会において115人にアンケートを配布し、後日、郵送回収した。回収状況は62人(回収率53.9%)である。
アンケート調査の実施および調査内容については、B市の理解と協力を得、研修日に見守り推進員に配布の際に、調査は無記名式で記入し回答者が特定されないよう配慮すること、回答については統計処理をし、研究目的以外に使用しないことを説明した。
4.研 究 結 果 見守り推進員の性別は、女性が8割を超え(83%、51人)、男性はわずか11%(7人)にとどまっている。また、年齢は、最も多いのが50歳代で36%(22人)、次いで多いのが30歳代で19%(12人)、20歳代が18%(11人)、40歳代が16%(10人)と続いている。
「見守り推進員」の経験年数については、「1~3年未満」が最も多く46%(29人)、次いで「1年未満」が23%(14人)、「5年以上」が21%(13人)、「3~5年未満」が10%(6人)であり、3年未満の人が全体の約7割を占め、経験年数は、全体として比較的短期にとどまっている。見守り活動は、地域とのつながりを必要とする活動ではあるが、5年以上継続して従事している人は、約2割の5人に1人にとどまっている。
アンケート調査票に「孤独死」「独居死」の定義を明示したうえで、見守り推進員の活動目的の一つである孤独死等の予防的発見について質問した結果、「経験あり」が37%(23人)に及んでいる。また、孤独死や独居死の死後早期発見につながったと回答した者は42人(複数回答)で、一定の成果を上げている。発見の経緯については以下のとおりである。
①見守り推進員・LSAの定期訪問で発見(4件)
②民生委員・友愛訪問ボランティアの訪問で発見(5件)
③近隣住民などの通報で早期発見(8件)
④ガス、電気などのICTシステムで発見(4件)
活動上、困難に感じている者は77%で、その理由として、「対象者が訪問拒否する」(28人)、「対象者がアルコール依存や精神疾患等で対応ができない」(22人)などがあげられた。
活動の課題は、地域包括支援センター内での連携や地域住民への働きかけの時間、広報活動や活動の普及、行政の支援体制などが必要であることがあげられた。
(本研究は大阪ガスグループ福祉財団2008~2009の2年間助成の研究成果の一部である)