児童自身のもつ地域のとらえ方を基盤とした福祉教育
○ 川崎医療福祉大学大学院 岡正 寛子 (会員番号5477)
川崎医療福祉大学 田口 豊郁 (会員番号2044)
キーワード: 《福祉教育》 《ソーシャル・キャピタル》 《拒否感》
近年、わが国では、急速な少子高齢化の進展や社会および家族形態の変化を背景に、介護保険制度や自立支援制度が導入された。介護保険法の第1条では、「国民の共同連帯の理念に基づき」と規定されている。また、障害者自立支援法では、第3条に「すべての国民は、その障害の有無にかかわらず、障害者等がその有する能力及び適性に応じ、自立した日常生活又は社会生活を営めるような地域社会の実現に協力するよう努めなければならない。」と国民の責務が明記されている。そのため、「地域における自立生活を支える基盤として必要な「環境醸成」と福祉サービスを利用して自立生活を営むことができる「主体形成」を図る方法」として役割を担ってきた福祉教育の必要性は,より一層増してきていると考える.
これまで、学校を中心とした福祉教育に関する研究が進む中で、福祉教育の早期開始の必要性と効果は、実証されてきた。特に、平成14年度より導入された総合的な学習の時間の中で、「福祉」が取り入れられ、高齢者や障害者と直接関わる交流学習の機会が増えたことで、福祉教育の効果は拡大している。しかし、一方で、学校を中心とした福祉教育であるための課題が、多くの研究の中で指摘されている。それを要約すると、課題の第1点は、教材の一環として扱われ断面的・単発的な活動に留まっている状態にあることであるといえる。第2点に、児童・生徒個々の計画による体験学習が,授業ということで時間や内容に制限を受けていることが課題であるといえる。これらの課題があるために交流体験を通し、高齢者に対して抵抗をもってしまっても、それを緩和することができないまま活動に関する積極性に欠け義務的に役割を果たすこととなっている現状も見受けられる。
このような課題を踏まえ福祉教育は、学校という限定的な枠組みの中での体験・交流学習から地域の中でいくつもの立場を変えた拠点を設け、より地域資源を活用した体験と学習の実践することが重要であると考えられ、議論が進められてきている。このような地域の中での体験学習実現のためには、児童の地域観に応じた形でなければならない。同時に、児童の心理にも配慮する取り組みとすることが必要である。
そこで、本研究では、児童が地域をどのように捉え、活用しているのかを明らかにする。その上で、児童の心理のうち、抵抗感に着目し、その緩和につながる要因を明らかにすることを目的とする。
(1)調査対象と調査方法
A県B市C町の小・中学校に通う児童・生徒のうち小学校5年生以上309人を対象に,自記式調査票を用いた集合調査を実施した.調査期間は,2009年7月とし,クラス担任に配布・回収を依頼した.
(2)調査項目
質問紙内の調査項目は,以下の内容とした.①他人への信頼に関する項目(2項目)②日常的なつきあいに関する項目(6項目)③地域活動に関する項目(3項目)④自分自身の生活に関する項目(3項目)、⑤発達に関する項目(1項目)(6)、⑥高齢者・障害者との関わりに関する項目(7項目)⑦対象者の属性に関する項目(3項目)の7点を設定した.
調査の手続きとしては,調査実施にあたり調査票の内容および方法について,小学校長および中学校長に調査票の確認を依頼,許可がでたうえで実施した.また,調査実施時には,対象者に調査の趣旨,成績には関係ないこと,プライバシーは保護されること,調査への参加は任意であることを明示した.また,回収時には,対象者自身が配布した封筒に入れ,封をすることで,研究者以外がみることができないようにした.
4.研 究 結 果1.児童の地域のとらえ方の特徴
児童が、地域をどのように捉えているのかを明らかにするために、ソーシャル・キャピタルを用いて測定し、指針とすることを試みた。ソーシャル・キャピタルとは、「規範」・「信頼」・「ネットワーク」といった構成要素をもつ社会資本であり、近年、コミュニティの再生の研究において注目されている。
児童をとりまくソーシャル・キャピタルの特徴としては,「つきあい・交流」と「信頼」の中で,友人の項目が,小学生,中学生ともに突出して高いことが明らかとなった.特に,中学生においてはそれが顕著であり,「つきあい・交流」や「信頼」は,友人に凝縮されていると考えられる.このことから,児童のソーシャル・キャピタルは,友人を中心とした結合型ソーシャル・キャピタルを強く意識していると考えられる.
2.高齢者や障害者に関わる際に心理的影響を及ぼす要因
児童が高齢者や障害者と関わる際の心理的影響を考察するために、本研究では関わることへの抵抗感を測定した。その結果、性差での抵抗感への影響はみられなかった。しかし、小学校と中学校では、「施設を利用しているお年寄り」、「体に障害のある人」、「体以外に障害のある人」、「近所の大人」の4項目で小学校よりも中学校の方が抵抗感のないことが明らかになった。また、ソーシャル・キャピタルの構成要素と抵抗感との関係から、ソーシャル・キャピタルが高い群が低い群よりも抵抗感がないことが明らかとなった。つまり、年齢による差異とともに児童のもつソーシャル・キャピタルが影響していると考えられる。