【第17回】「初期キャリアが築けない」研究者のつぶやき(鬼頭 裕美)

聖カタリナ大学人間健康福祉学部社会福祉学科
 鬼頭 裕美

自己紹介

 人間としてのキャリアは折り返し地点に到達しました。「人生は旅」ということばがありますが、振り返ると自分の意思とは裏腹に、先の読めないスリリングな旅だったなぁと思います。
 関西の大学で心理学を専攻しました。「就職氷河期」で就活をする気にもなれず、アルバイトと遊びに明け暮れる毎日。調べるうちにMSWという職業があるのを知り、関東の大学院に飛び込みました。この選択は、今思うと、わが人生で最良の閃きでした。社会福祉学をけん引し、第一線で活躍される教授陣の講義は、全く福祉に関心がなかった私には目から鱗の連続。病院で長期実習させて頂き、緩和ケアについての修論を仕上げました。大学院で出会った恩師や先輩方・友人の存在は、ある時は福祉の道を歩む上での道しるべとなり、ある時は心癒されるオアシスとなり、心の支えとなっています。
 その後は、興味が赴くままに15年ほど医療福祉現場を渡り歩き、6年前より大学の教員をしています。学生は子どものような年齢です。入学時には、まだまだかわいいなんて思っていたら、4年間で目を見張るほどの成長をし、いつもパワーをもらっています。

研究・実践内容

 当事者主体の取組による新たなつながりの創出とその支援に関心があります。住民主体の移動・外出支援、ひとり親家庭支援の調査研究に関わらせて頂きました。いずれも、現在の福祉政策においては、十分ニーズを満たすことができない複合的な課題であり、研究も実践も他領域との協働が必要で、コミュニティ、交通、公衆衛生、予防医学、教育、社会学、NPO、行政、孤独・孤立など様々な専門家・活動家の方とご一緒させて頂いています。福祉の世界では当然のことでも、違う分野からは新鮮に受け止められたり、知的好奇心が刺激され、わくわくします。
 6年前からシングルマザー支援団体のスタッフとして、交流活動のほかに、食糧支援やソーシャルアクションを行っています。最近は子ども・若者の権利、子ども・若者主体の取組に強い関心があり、愛媛で新しい取組を行おうと地域のNPOや支援団体と横の連携をとって検討を続けています。

当学会へのリクエスト

 3点あります。1点目は子育てや介護等家庭の事情や困難を抱える人でも参加しやすい仕組みを作る(継続する)こと、2点目は新しい研究手法を学ぶ機会の提供、3点目は権利侵害に対する声明等のソーシャルアクションです。
 当学会がというわけではないのですが、運営を「強い個人」が担っていることで、社会的弱者は参加しにくい構造となっている現状があります。私は「地方在住」、「ひとり親」で「子育て」をしていて、自由に身動きがとれないため、参加の機会は非常に少なくなりますが、関心がないわけではありません。地域共生社会が目指す「誰もが役割をもてる」「多様性の尊重」「活躍の場づくり」が、学会運営のなかにも取り入れられるならば、より積極的に関与させて頂きたく存じます。