【第10回】離島の福祉研究者として(波名城 翔)

琉球大学人文社会学部人間社会学科社会学プログラム社会福祉学コース専任講師
波名城 翔

自己紹介

 私は沖縄県の宮古島出身です。幼少期にある事件の当事者となったことから精神障害分野に興味を持ち福岡の大学に進学しました。卒業後は宮古島に戻り、県立病院精神科デイナイトケアの立ち上げや地域包括支援センターのプランナーに従事した後、社会人として大学院へ進学しました。大学院修了後は再度、宮古島に戻り県立病院(地域連携室)を経て、市役所に5年間(障がい福祉課、福祉政策課)勤めました。縁があり2018年から大学教員となり、2020年より地元沖縄県の大学に着任しました。

研究内容

 私は主に離島の精神保健福祉に関する研究に取り組んでいます。まず、1点目には、精神障害者への地域支援体制に関する研究です。大学院や医療機関では長期入院精神障害者の地域移行について取り組んでいましたが、離島では限られた精神病床の中で地域支援体制の構築が重要だと考え、市役所に転職し多機関連携と地域支援システムの構築について実践的に取り組みました。現在は対象地域を全国の離島に広げて研究しています。
 2点目には自殺予防対策です。市役所時代には配属課が自殺対策を担当しており、たまたま自殺対策担当の職員が産休に入ることになり、正職員が私だけしかいなかったため自殺対策を担当することになりました。当時、全国的に自殺対策は保健師がメインでしたが、うつ病の方を対象に集団認知行動療法や多量飲酒者への節酒プログラムを行う中で精神保健福祉の分野でも自殺対策は重要だと考え、現在、離島の自殺予防対策についての研究を科研費に採択頂き取り組んでいます。
 関連研究として、離島では学校卒業後に多くの若者が就職、進学で島外に出ていきますが、人間関係の構築の難しさ等から体調を崩し帰島される方がいます。そのため、宮古島の伝統的飲酒法「おとーり」に見られるコミュニケーションに着目した研究に取り組んでいます。その他として、沖縄県や鹿児島県の奄美大島の一部にある共同売店の研究やユニバーサルツーリズムの研究などにも取り組んでいます。
 離島というと遅れているイメージが強いかも知れませんが、むしろ、離島では障害者や高齢者が分け隔てなくつながる取り組みが実現されており、私たちが目指している「共生社会」を実現するための示唆を与えてくれると私は感じています。

当学会へのリクエスト

 大会等の研究発表の場や学会誌の発行回数は私が所属する他学会と比較して多くあるので、今のところリクエストということはないのですが、強いてあげるなら、全国的に社会福祉を目指す若者が減少傾向にありますので、次世代を担う若者たちが社会福祉に興味を持つような仕組み作りをお願いしたいと思います。