日本社会福祉学会 第67回秋季大会

大会について

学会長挨拶

日本社会福祉学会第67回秋季大会によせて

一般社団法人日本社会福祉学会 第6期会長
金子光一

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 第67回秋季大会は、『共生社会の構築に向けて ―自立と多様性の共存』というテーマで開催されます。「共生社会の構築」は、社会福祉学の領域で伝統的に大きな目標となってきたものですが、「地域共生社会の実現」を目指す日本社会の大きな潮流の中で、改めてその重要性が注目されています。
 そのきっかけとなったのは、2015年9月に厚生労働省が示した「誰もが支え合う地域の構築に向けた福祉サービスの実現 ―新たな時代に対応した福祉の提供ビジョン―」ではないかと思います。そこでの目標は、いわゆる互助・共助の取り組みを育みつつ、誰もが支え、支えられる社会の実現でした。また、2016年7月に厚生労働省が示した「『我が事・丸ごと』地域共生社会実現本部について」においては、「『支え手側』と『受け手側』に分かれるのではなく、地域のあらゆる住民が役割を持ち、支え合いながら、自分らしく活躍できる…『地域共生社会』を実現する必要がある」と記されています。すなわち、地域住民は、誰でも支援の提供者となり、支援の受け手にもなるということです。
 しかしながら、ここで考慮しなければならないことは、地域社会を基盤に展開される支援の「権利付与」と「相互義務」との関係です。権利をもちながら権利保有者として扱われていない(扱われてこなかった)人たちに対して、われわれはどのような支援を展開すべきなのでしょうか。また、地域住民が支援者となる場合、その義務とは何でしょうか。住民相互が負担する義務について、改めて考える必要があるように思います。
 それらの問いに対する答えのヒントは、今回の大会のサブテーマ(「自立と多様性の共存」)にあるのかもしれません。「自立と多様性の共存」を目指した具体的な実践にはさまざまなアプローチがありますが、国連が展開している「人権に基づくアプローチ」(rights-based approach, RBA)はその一つだと思います。国連は、差別、貧困、人身売買、HIVエイズ、そして先住民の権利を擁護するために、テーマごとの専門家と連携を取りながら、RBAをそのガイドラインに即して実践しています。
 国連や世界の援助機関が用いているRBAの定義を整理すると、概ね「(1)貧困を権利の剥奪と捉える。」「(2)人権の原則を重視する。」「(3)権利保有者と責務履行者の役割を考える。」等の共通点があるようです。貧困者の自立を促す支援において、「(1)貧困を権利の剥奪と捉える」視点は重要です。貧しさを本人だけの責任とせず、教育や医療、意思決定への参加等の権利が奪われてきた結果として捉える視点が求められています。また、「(2)人権の原則を重視する」ことによって、少数者や特定の地域の多様性が尊重され、包摂が進み、差別のない平等な社会の実現に近づきます。さらに、それら(自立と多様性)が共存するためには「(3)権利保有者と責務履行者の役割を考える」ことが必要です。これは、前述した「権利付与」と「相互義務」の視点と関連するものです。
 「共生社会の構築に向けて」社会福祉学に何が求められ、何をしなければならないのか、皆様方と共に考え、しっかりと学ばせて頂きたいと思います。
 最後になりますが、大会の開催に当たり多大なるご尽力を賜りました大分大学学長の北野正剛大会長ならびに相澤仁実行委員長をはじめとする大分大学の先生方および学生の皆様方に、心から感謝申し上げます。


大会長挨拶

日本社会福祉学会秋季大会開催にあたって

第67回秋季大会 大会長
大分大学 学長 北野正剛

第67回秋季大会 大会長 大分大学 学長 北野正剛

 この度、大分大学におきまして日本社会福祉学会第67回秋季大会を開催するにあたり、歓迎のご挨拶とご案内を申し上げます。ご挨拶にあたって簡単ですが、大分大学の紹介をさせていただきます。
 大分大学は、1949年5月に学芸学部、経済学部の2学部でスタートしました。1973年5月には工学部(現在は理工学部)を新設し、2003年10月に大分医科大学(1976年10月設置)と統合し、新大分大学となりました。
 福祉関係に目を向けますと、1998年に福祉科学研究センターを立ち上げ、1999年4月に教育学部を教育福祉科学部に改組し、さらに2002年4月、独立研究科である福祉社会科学研究科を設置しました。2016年には教育福祉科学部における社会福祉、心理の専門職養成の実績をふまえつつ、これにリハビリテーションの専門職養成のコースをさらに加え、福祉健康科学部として新設いたしました。理工学部にも建築やメカトロニクスの立場から福祉機器や建築に関連した研究をする教員が在籍しており、まさに全学を挙げて地域の社会福祉やそれに関連する人材を養成して参りました。今回の大会の準備を中心的に担う福祉健康科学部は国立大学で唯一、「福祉」の名称が入っております。
 さて今回の大会のテーマは、「共生社会の構築に向けて〜自立と多様性の共存」としました。少子高齢化の深刻さはますます待ったなしの状況になっております。そうした中で地域包括ケア、地方創生、地域共生社会の必要性が指摘されております。私たちは、地域共生社会の根本を問うためにも、もう一度、「自立」や「共生」の意味を深く考えることが必要ではないかと考え、今回のテーマを設定しました。
 大分県は日本における障害者スポーツのパイオニアであり、太陽の家の創始者でもある中村裕に代表されるように福祉、医療、リハビリテーションについて独自の蓄積をもっております。また温泉や海の幸、山の幸、自然にも恵まれた地域です。どうか、2日間、大分県を楽しみながら、大いに議論を深めていただけたら幸いです。


実行委員長挨拶

大会のご挨拶

第67回秋季大会 実行委員長
大分大学 教授 相澤 仁

第67回秋季大会 実行委員長 大分大学 教授 相澤 仁

 日本社会福祉学会をはじめて国立大学で開催することになりました。大分大学では、本大会のテーマを「共生社会の構築に向けて〜自立と多様性の共存」としました。
 我が国は超少子高齢化社会という一筋縄ではいかない超難問に取り組まなければならず、超少子高齢化社会を乗り越える方法として提案されたのが、地方創生、地域共生社会の実現、地域包括ケアシステムの構築であります。
 少子高齢化の進展と世帯構造の変化のなかで、誰もが安心して暮らしその人らしい健幸な生活を保障する地域共生社会を実現するために、それぞれ個人や世帯(家族)が抱える課題解決に向けて、保健、医療、教育、福祉など各分野や領域を超えてつながり、包括的な相談・支援体制の構築などが喫緊の課題となっています。
 こうした地域共生社会を実現するためには、その人らしさを尊重する「多様性」を確保し「共生共育」を目指していくことが大切です。生きたその人らしさは本来つねに個性的であり多様なのです。
 しかしながら、多様な人がただ単に並列的に存在していればよいというわけではありません。すべての人間がよりよい生活をつくりだそうと日常的な努力のなかで、相互に影響し合って、自己の不完全性を自覚しつつ、常によりよい自分らしさを目指そうと努力する人間性の形成を推進していくことが求められているのです。
 その推進こそが、子ども、障がい者、高齢者といった対象や分野を超えてつながり、地域共生社会の実現を可能にする1つのポイントであると考えています。
 どうすれば、超少子高齢化社会を乗り越えるための地域共生社会の実現や地域包括ケアシステムの構築を可能することができるのでしょうか。
 本大会では、「共生社会の構築に向けて」を研究テーマにして開催いたしますので、是非とも参加していただき、熱のこもった活発な議論を交わし研究の推進に寄与できる機会となることを期待しています。
 九州にあってしかも大分という地は決して交通の便が良いとは言えず、参加することをためらうような場所ではありますが、一方で別府・湯布院温泉など日本一の温泉県をはじめ、関アジ関サバ、豊後牛、とり天、どんこなど美味しい食材も多く、麦焼酎などの酒類も豊富なところです。
 本大会の開催は、2019年9月21日からの三連休の前半2日(21・22日)でございます。23日は参加された方々が大分での観光を堪能できるように開催日を決めましたので、是非とも本大会に足を運んでいただき、大分でのプライベートも楽しんでもらいたい、すなわち「よく学びよく遊ぶ大会にしたい」と考えております。スタッフ一同心よりお待ちしております。